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一二三四五六七

その時に感じたことを書きたいです。

『魔女こいにっき』『魔女こいにっき Dragon×Caravan』感想

プレイ済み感想

あるところに二人の夫婦がいた。

美しい男と美しい少女は自然な成りゆきと

いくつかの偶然を交えながら恋に落ちます。

互いが互いを好きで。

それだけで世界の何もかもは、華やぎ、優しくなり、

まるでおとぎ話のような時間が二人に訪れる。

この世にこれ以上はないというほどの美しい瞬間に、二人は永遠を誓う。

おとぎ話ならここでめでたしめでたしで終わるだろう。

けれど、人生はそうはいかない。

いつか少女は歳をとり。おばさんとなり、皺ができ。

生活の疲れはかつての美しさを蝕み、貧乏は彼女の心を僻ませ。

夫とのすれ違いは彼女の愚痴を多くする。

一方の夫も、頭は薄くなり。腹は出て。

いつでもどこか遠くを見ていた夢見がちな瞳は

ただ、日々の暮らしの往復を映すばかり。

あれほどみずみずしくお互いに満ちていた想いはどこかに消え失せて。

二人はほとんど話すことすらなくなりました。

いつか見た、あの美しいおとぎ話の面影すら、そこにはない。

物語はどこにいったのか?

 

-『魔女こいにっき Dragon×Caravan』プロローグ

 

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『魔女こいにっき』

ブランド:Qoo brand

企画・原案:新島夕

公式サイト:Qoobrand > 「魔女こいにっき」Official Website

 

 本作品『魔女こいにっき Dragon×Caravan』(PS Vita「魔女こいにっき Dragon×Caravan」公式サイト | ENTERGRAM)はそのCS移植版であり、

・「失われた物語」(氷室百合視点の物語)

・「灼熱の王子と小さな竜」ルート

が追加シナリオの主要な部分となっている。また、原作ヒロインにもいくつか新規エピソードが追加されている。

 

Q.無印と「Dragon×Caravan」のどちらをプレイすればいいの?

A.無印→Dragon×Caravan」の順にどちらもプレイすることが望ましいです。

無印は18禁なのでえっちシーンがあり、それは「魔女こいにっき」のとある解釈には欠かせないものだからです。

Dragon×Caravan」ではえっちシーンは全カットですが、その代わり追加シナリオがあります。

「失われた物語」はありすの友達である氷室百合の話で、読む価値はあったと思うくらいにはよかったです。

「灼熱の王子と小さな竜」は、無印でのSECRET√(后・アリスの話)後のお話です。CS版をわざわざプレイする大きな理由になるとは思いますが、正直賛否が分かれそうです。私にとっては微妙であったので、あまり積極的には勧められないですね。

 

 

 以下、ネタバレを含みます。

想定する読者は無印or「Dragon×Caravan」の既プレイ者、もしくはネタバレを気にしない方です。

 

全5節で14000文字強になります。

0.節→あらすじ

1.節→南乃ありす√について

2.節→后アリス(SECRET√)について

3.節→PC版アリス√のもう一つの解釈について

4.節→vita版追加シナリオ「灼熱の王子と小さな竜」について

 

0.物語概要

 ~STORY~

バラ色町の商店街にある理容室で一人暮らす少女、南乃ありす。

学園二年目の春も、特別な事は何もなく、いつもの電車に揺られ、いつもの友達と過ごします。

そんなある日。友達と一緒に、学園はずれの森にある時計塔に探検をしたありすは、塔から落ちてきた不思議な日記を拾います。

持ち帰り、そっとその日記を開いてみるのですが、そこにはある少年の日々がつづられていました。

小さな町を舞台に、一冊の日記をめぐり、少女の初恋の...失恋の物語が始まります。

ー公式サイトより

 

基本的に、少女「南乃ありす」が一人称視点で日記を読んでいくという形式でゲームが進行していく。

物語内での重要な内容も後半に極端に偏っており、時系列がぐちゃぐちゃであることも相まって、設定を追うだけで精一杯であり気がついたら終わっていた、という人もいるのではないだろうか。(少なくとも、私は1周目そのような自体に陥っていた。)

 

そこで初めに、事柄を時系列に沿って簡単に整理しておきたい。その際、公式で販売されている『魔女こいにっき ビジュアルファンブック』に記載されている時系列表を参考にしたので、正確なものになっているかと思う。

 

 なお、物語の区別がしやすいように”第一の物語”、”第二の物語”、”第三の物語”、”日本昔ばなし”、”沢山の物語”と名前を付けた。これはこの感想内で便宜上付けた名前であり、作中では出てこない。

 また基本的に、片仮名の「アリス」は后・アリスを、平仮名の「ありす」は南乃ありすを指すとする。

 

約210年前:第一の物語=砂漠の国の物語

・砂漠の国の王・ジャバウォックが隣国の姫・アリスに一目惚れをして結婚する。

物語が好きで夢見がちなジャバウォック王は、”永遠に止まらない時計塔”を建設しようとしたが失敗し、王国を追放され、后・アリスや魔法使い・崑崙らを従え楽園を目指し西へ進む。しかし、疲弊が積み重なり、途中で立ち往生してしまうことになる。

 

・ジャバウォック王の眼中には楽園しかなく、そこにアリスはいない事に胸を痛めた后アリスは、崑崙に命じて”竜の書”を作り上げる。この”竜の書”は「使用者は不老不死の生命を得て、永遠に物語を語り続ける」という効果をもつ。アリスはジャバウォックにそれを使わせることで、物語の内側に閉じ込め永遠にそれを読むことで慰めにしようとした。

 

・勿論そのような后アリスの思惑に気付かないジャバウォック王は、崑崙に「この”竜の書”に願えば、永遠に物語を語り続けることが出来る」と唆され、永遠を願い”竜の書”と契約し、不老不死の”物語”(の語り手、そしてその主人公)になった。

その後、ジャバウォックは、崑崙がよく語っていた思い出の地・日本へと渡る。

 

 ☆ちなみに、アリスは「ジャバウォックは自分(后アリス)のことを忘れるように」と願ったため、以後ジャバウォックにはアリスの記憶が無い。(この記憶を取り戻すのがシークレット√である。)

 

約200年前:日本昔ばなし①=佐納歌音との物語

・舞台であるバラ色町にある”時計塔”の成り立ちについて。

 

約80年前:日本昔ばなし②=南乃ありすの母や、相馬有栖との物語

・たくみ、学園で出会った少女(南乃ありすの母)に恋をするも、少女は幼馴染の少年と恋仲になり、二人は南乃理容室を開店する。

少女に振り向いて欲しい一心で、たくみは総合美容施設シンデレラを開店するが見向きもされず、幸せな二人の姿を遠くから見守ることに決める。

 

・たくみ、シンデレラの美容師・相馬有栖と恋仲になるが、歳をとらないたくみに有栖の精神が耐えられず、彼女との物語を終わらせることを決意する。

 

☆この時代に主人公はジャバウォックから日本人らしい名前「桜井たくみ」に改名していた。

 

約60年前:第二の物語=Cinderella Story

・南乃ありすと桜井たくみの邂逅。そして、二人は恋に落ちる。

たくみは「俺は不老不死だからお前と一緒に歳をとれない」とありすに告げ、自分の正体と過去(記憶のない后アリスの話を除く)を打ち明ける。

ありすはそれを受け入れ、共に生きることを決める。

 

約1年前①:第二の物語の終焉

・しかし、高齢者となったありすは痴呆症になってしまい自らを学園生だと思い込み、「学園に行きたい」と言い出す。たくみはせめてその願いを叶えようと学園に通わせるが、ありすが自分のことを忘れていることを知り、失意のあまり自分の記憶を全て消すよう崑崙に頼む。

(これがアリスの差し金であることが後で判明する。)

 

☆これ以降、ジャバウォックでもなく桜井たくみでもなく「主人公」と表記する。

 

約1年前②:沢山の物語

・記憶を失った主人公は、加藤恋、梢あけみ、周防聖、柏原美衣、三人組(堀田・山田・岡田)、時計坂零とそれぞれ物語を紡ぐ。そして、最後に時計坂姉妹を助ける為に魔力を使いきり消滅する。

 

☆このときもまだありすはせっせと学園生(1年生)をしている。

 

現在①:崑崙との物語

・魔力を取り戻した主人公が復活する。このとき、ほぼ全ての記憶(后アリスの話を除く)を取り戻す。……というのは大嘘で、実は崑崙が記憶を改竄しており、ありすとの生活を全て崑崙との生活だったと思い込まされていた。

・そんなことに気付かずに主人公は崑崙とイチャイチャするが、ある日崑崙に真実を告げられた主人公はありすの記憶を取り戻す。そして、バラゴンへと姿を変えてありすの元へ向かう。

 

☆このときもまだありすはせっせと学園生(2年生)をしている。

 

☆ここまでの流れを纏めておく。

「"第一の物語"(砂漠の国の物語)→ジャバウォック、アリスの記憶を失う→"日本昔ばなし"→"第二の物語"(Cinderella Story)→ありす、ボケて学園生に→たくみ、悲嘆のため記憶を捨てる→"沢山の物語"の後、主人公が消滅→復活した主人公、擬似記憶を取り戻す→主人公、ありすの記憶を取り戻し、バラゴンとなりありすの元へ→"第三の物語"」という時系列である。

 

現在②:第三の物語=自称学園生の高齢者ありすと、主人公であるバラゴンの物語

・この話は至ってシンプルである。つまり、魔女となったありすがバラゴン(=主人公)と共に、街に散らばった物語の欠片を拾い集め、”日本昔ばなし”、”第二の物語”、”沢山の物語”を読みながら、上に書いた時系列を辿るお話。

・そして全ての物語を読んで、真相を知った主人公とありすは、物語の果てに辿り着く。これがオーラス√=ありす√である。

 

☆ここで”全て”や”真相”といった言葉を使ったが、本当は”物語”の支配者であるアリスについての記憶はまだ無い。これを取り戻し、アリスの本心、つまり『魔女こいにっき』の真の構造を知って終幕となる。これがシークレット√=アリス√である。

 

 

 

1.バラ色の日々はおとぎ話のように

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 本作は、学園生だと思い込んでいるありすが時計塔に行き「魔女こいにっき」を手にするところから始まる。先程の時系列でいえば、現代①である。

覚えているだろうか。そこでありすたちは竜の咆哮を耳にしている。

時系列のまとめを思い出すと、実はこの咆哮が、ありすに忘れられ失意のうちにバラゴンとなった主人公のものであることが分かる。

なんだろう気になるうなり声……。

怖いとも違う。

その声が、なぜか悲壮に…切なそうに聞こえて。気になってしょうがない。

ーありす

 その後、バラゴン=主人公と邂逅した南乃ありすは「魔女こいにっき」を読み進める、つまり、ありすがありす自身の物語を読むことで記憶を取り戻し、"物語の先頭"へと向かっていく。

"物語の先頭"とは、”第二の物語=ありすとたくみの物語”であるCinderella Storyでの二人の出会いを指すのだろう。ボケ老人となった南乃ありすは様々な物語を読むことによって時系列を整理し、バラゴン=主人公=桜井たくみとの出会いの記憶を思い出す。そして、遂に「物語の先頭でようやく出会う」ことが出来たのである。

 

 「物語の先頭」に立ったことで、ありすとたくみとの物語は再開し、そして終幕へと向かう。

 

互いが互いを好きで。

それだけで世界の何もかもは華やぎ、この世にこれ以上はないというほどの美しい瞬間に、永遠を誓った二人。

おとぎ話ならここで終わって、その幸せな瞬間は永遠に閉じ込められただろう。

めでたしめでたしだけが閉じ込められただろう。 

けれど、人生はそうはいかない。

その瞬間に都合よく存在が消えてなくなったりはしないし、生活は続いてしまう。決して止まらない。

年を経る毎に少しずつ生活に疲弊して、お互いにみずみずしく満ちていた想いも失われていってしまう。いつか見たあの美しいおとぎ話の面影すら、そこにはない。

ある日男は……妻を連れて、散歩に出かける。
今更交わす話題もなく。見慣れた近所を歩くのは、二人にとって苦痛でしかないようだ。
妻もまた、気まずい思いに駆られている。
ふと通る車の窓に映った自分の老いさらばえた姿と、そこに乗っていた美しい女性を引き比べて、憂鬱を感じる。
今日に限って自分を誘った夫の気まぐれを、うっとうしく思う。
そんな感情は夫にも伝わり、二人の散歩は、ぎくしゃくとしている。
そもそも俺はどうして今日に限ってこいつを誘ったのか。さっさと帰ろう。そして、テレビでも見ようと思ったとき。
ふと、ほのかな木漏れ日が妻の顔を照らし。そこに、一瞬、若い頃の姿を見て、夫は思う。
あらゆるものが繋がって、今があることを。何ひとつ、消えたわけではない。ただ、遠くにいっただけなのだと
そして……
男は口にする。
君といられて幸せだったと。
妻は……何言ってるの……と、口にしながら、少しうつむいて……
そうして二人で家に帰る。
それが物語だ。

 

ーたくみ/「Cinderella Story」ChapterⅣ

 

確かに、バラ色の日々はおとぎ話のようだったのかもしれない。

けれども、それは決しておとぎ話ではなかった。物語は、何ひとつ嘘ではなかった。ただ、遠くにいってしまっただけなのだ。

幸せな日々もあった。一緒にいるだけでぎくしゃくしてしまう日もあった。共に人生を歩めないことがつらいからと、お互いがお互いに相手のことを忘れてしまったこともあった。

そういったあらゆるものが繋がって、ありすとたくみの今がある。

 

そして、二人の物語は終幕を迎える。

真・けーこ、真・やっこ、栗原、三人の姉(あさひ、まひる、ひぐれ)、カルボナーラ(おかーさま)、くー(ペット)、時計坂零、カノン、崑崙、そして、たくみ。

今まで出会ってきた人々に見守られ、初めて出会ったあの日のように、ありすとたくみはダンスを踊る。

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まるで、夜の海を泳いでいるようだった。

一生忘れることはないだろう。

ううん……きっと、死んでも忘れられない。

大好きな人達に見送られて、いくつもの星々が輝く大海を、好きな人とこうして、どこまでも、こぎ出していく気持ちを。

前方には、果てしない、空が広がっている。

まだ見ぬ世界へと、私は、あなたと泳いでいく。

 

ありすとたくみの生活は続く。しかしそれは、物語の中でではない。

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看護師A

「あら……ありすさん」

「お孫さん(注:主人公のこと)、来ていたんだ」

看護師B

「またお話を読んでいたのかしら」

看護師A

「二人でお昼寝して……」

看護師B

「なんだかとても幸せそうね」

これは、ありす√のEDムービーが終わった後の、たった5セリフだけがあるシーンだ。

 

めでたしめでたしの部分だけで人生は終わらない。それからも続いていく。

変わらないものなんて無い、ましてや恋や愛という気持ちが不変であることはない。

けれど、その気持ちがなかったことになるわけではない。ただ、遠くにいってしまっただけなのだ。

 

言葉にしてしまうと随分と陳腐になってしまうが、私にとってありす√はよく描けていたし、感じ入るものも多かった。一言で言ってしまえばありきたりな人生哲学なのだろうが、やはり大切なのはそこに至る過程である。高尚な哲学だろうと記述の仕方を間違えると馬鹿馬鹿しい自己啓発になってしまうし、些細な人生観でもきちんと描けばそれは一つの人生となるだろう。

 

物語ではFinと表示が出て終わってしまう部分よりも先まで描いた、それこそ老後の話まで描いたエロゲだって色々ある。だが、それは概して老後までずっと二人は幸せなままだった。

ありす√はその点においては少し異なる。ただ、あの頃にみずみずしく満ちていた想いは遠くへいってしまっただけなのだと、そう主張する。

しかし、そこに負のイメージはあまり付与されていない。どうしようもなくそういうものなのだと、単にそう描いているように思う。この点が一番気に入っているところでもある。

ありす√は『魔女こいにっき』で一番好きな√だ。

 

過ごした時間は嘘じゃない
感じたぬくもりだって嘘じゃない

昨日までのすべてが思い出になる

ずっと一緒だと伝えた言葉だって嘘じゃなかったんだよ

 

忘れないよ

出会ってから受け取ったものすべて 全部 全部
胸に書きとめた出会いと別れの記し 恋の日記帳

忘れないよずっと

 

ー魔女こいにっき オーラスED「初恋」/WHITE-LIPS

 

 

 

 

2.ひと目惚れより永遠を

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先程の”1.バラ色の日々はおとぎ話のように”冒頭部分で「物語の先頭」を持ち出したのは、作中において「物語の果て」も語られるからだ。この「物語の果て」は、かつてジャバウォック率いるキャラバンが辿り着く事のできなかった「砂漠の果て」にある楽園を準えたものだろう。実際に、ありす√を終えるとタイトル画面はヒロイン達がオアシスで遊んでいるCGとなり、まさに楽園が象徴されている。

 

ただ、この"楽園"は、何ひとつ現実にできなかった夢見がちなジャバウォック王がいくつもの物語の末にようやく語り終えたこと、くらいを意味しているのだと思う。そんなに深い意図があるわけではない気がする。多分。

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この後、タイトル画面で放置すると「ALICE」編に突入し、「魔女こいにっき」の全貌とアリスの存在が明かされる。)

 

  しかし、それは”物語”の支配者であるアリスの意に反するものであった。 

なぜなら、アリスは永遠の物語を望んでいたからだ。幸せな瞬間に終わったおとぎ話には、永遠が閉じ込められているからだ。

 

少しアリスの状況を纏めておこう。 

・かつてジャバウォックはアリスに対してひと目惚れをして二人は永遠を誓いあったが、いつのまにかアリスは見向きもされなくなっていた。
 

私の好きな人が私のことを好きじゃない。そのことを悲しんだアリスは、「使用者は不老不死の生命を得て、永遠に物語を語り続ける」という効果をもつ"竜の書"においてジャバウォックを主人公とする物語をつくり、語り手としてジャバウォックを、読み手としてアリスを配置した。

 

・そして、その物語内に何人も「ありす」(相馬有栖や南乃ありすや周防有朱など。恐らくほぼ全てのヒロインの本名はありす)を仕込み、主人公と恋をさせた。その「ありす」に自分を投影し、永遠に楽しもうとした。

 

・物語内なら、彼(ジャバウォック)はありす(アリス)を愛してくれる。物語内なら、幸せな瞬間を何度でも何度でも読み返せる。何度も、何度も何度も何度も何度も、恋が出来る。

 

 そして、ジャバウォックは「魔女こいにっき」を読み返しこの真相に辿り着く。時計塔に向かい、そこで遂にアリスと邂逅する。

 

 アリスは語る。

あなたは、さっそうと明日へと去ってしまった

私だけが取り残された

魔法が使えたら……って

 このセリフは、本作のキャッチコピーと重なっている。

ひと目惚れより永遠を

どうか日記に残せたら

あなたが明日へ去らぬよう

私に魔法が使えたら

 

ー魔女こいにっき/OPムービー

 瞬間的なひと目惚れなどという移ろいゆくものよりも、永遠の愛がほしい。その為に、あなた(ジャバウォック)を主人公とする日記(物語)を繰り返し読むことで、あなたが明日に行かないよう物語に閉じ込めてしまおう……というアリスの心情が読み取れる。

 

また、新島氏が作詞をした他ヒロインのEDテーマ『永遠の魔法使い』も引用したい。

やがて

おとぎ話だけが取り残されて

ただ 恋心だけ取り残されて

どこにも行けず

たたずむ僕は 魔法使うよ

永遠なれ

 

ー魔女こいにっき EDテーマ「永遠の魔法使い」/monet

 物語内で愛し合っているのはあくまで「主人公」と「ありす」であり、かつての夫婦であったジャバウォックとアリスではない。二人が愛し合っていたという過去の事実の面影は最早そこにない。「おとぎ話」の中で「恋心」という形式だけが「取り残され」るのである。

それでも私に出来るのは永遠に物語を読み続けることだけなんだ……と、ここからもアリスが絶望しているような心情が見てとれる。

 

 さて、アリスの本心を知った主人公は何を思うか。以下がその返答である。

確かなものだけを俺たちは語ればいいのか

君に一目惚れをしたから

永遠に一緒にいたいと……思った

けど変わっていくんだ

確かなものなんてない

だから人は……いや、俺は、物語を求めるのかもしれないな

そこには永遠が閉じ込められているから

めでたしめでたしだけが、閉じ込められているから

 「変わらない確かなものなんてない、だから永遠を孕んでいる物語というものを求めるのかもしれない」のだと言う。

そして次の台詞に続く。

俺はいつだって、砂漠の果てにある、ありえないものを信じていた

本当にあるのかどうかなんて分からない

そのほとんどは、結局、実現できずじまいだった

嘘つきだと言われてもしょうがない

でも、語らなければならない

人は、本当に、世界にあるものだけでは、やっぱり寂しいから

その果て、あるはずのないものを信じないと……生きていけないのだから

 

ージャバウォック

アリスは答える。

そして、あなたは私から去って行った……

私だけを置き去りにして

去って行ったのだわ

 

私は、私は……っ

そんなはかないものがほしかったんじゃない

 

ーアリス

  

アリスは永遠に確実なものだけを読み続けたが、ジャバウォックは瞬間的でも不確実でもいいから語り続けた。

そしてジャバウォックは「変わらないものなんて無い。ただ、遠くにいっただけなのだ」と気付き、ありすと物語を終えた。

一方で、アリスは「変わらないという永遠を求め」て物語に取り残されたままである。

 

ここにありすとアリスの決定的な違いが表れている。

ありすとジャバウォックは変わってしまった現在を受け入れたが、アリスは変わらないものを過去という物語に求め続けた。

 

こうして、ジャバウォックはアリスを”フった”。長い長いラブストーリーの終わりである。

 

永遠を欲しがったアリスは、二人でずっと同じ物語・同じ時の中を生き続けるため、ジャバウォックと共に物語の歯車となって永遠に廻り続けようとする。

 

歯車に押し潰される中、ジャバウォックは最後にこう告げる。

今は、もう、お前を愛することができない

その代わりに……この痛みを、歯車の悲鳴を愛そう

だから語るが良い

それがありえないものだとしても

叶わぬものだとしても

いいじゃないか

お前はつたないながら、語り始めた

人に語られるだけじゃなくて、

自ら、語り始めたんだ

存分にそれをすればいい

世界にこうあれと、願えば良い

やがて物語は竜として

天をふるわす咆哮をあげるだろう

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最後の最後で、ようやく読み手アリスは語り手アリスとなった。

移ろいゆく儚いものではなくて、変わらないものが欲しいと。

ひと目惚れより永遠が欲しいのだと。

それがありえないものだとしても、叶わぬものだとしても欲しいのだと、語り始めたのだ。

 

ジャバウォックはそれを高らかに賛美し、『魔女こいにっき』は終わる。

  

 アリス√のテーマを文面通りに解釈するなら、「変わらないものなんて無い。それでも永遠を望むなら、それが叶わぬものだとして欲しいのなら、強く求め続けろ。それに意味はある。」というところだろうか。

これは、ありす√の「変わらないものなんて無い。ただ、遠くにいってしまっただけなのだ。」というテーマと対応しているように思う。

 

永遠が叶わぬものと知りながら、それでもなお変わらないものを求めて語り始めたアリスの行く末は、vita版追加シナリオ「灼熱の王子と小さな竜」に描かれている。

これについては、次々節"4.私の好きな人が私のことを好きじゃない"で述べることにしたい。

 

3.あなたは違う。あなたはいらない。

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この節で記しておきたいのはPC版『魔女こいにっき』アリス√のテーマもう一つの解釈である。これは一言で言ってしまえば、「エロゲプレイヤーの態度への言及」である。

 

PC版『魔女こいにっき』とvita版『魔女こいにっき Dragon×Caravan』では、アリス√についての解釈が(全く)異なったものになっている、と私は考える。これは、今回の追加シナリオの性質上仕方のないことであるし、ライターの新島氏も移植にあたって意識していた点らしい。

CS化となると、新しいヒロインが一人くらい追加になって、元の作品+αというのが定石だと思いますが、本作は、本編を包括するような追加要素があって、本編をプレイしていただいた方にも、また違った一本として楽しんでいただけるようにしたいな、という野望がありました。なので違い、というと全体イメージが違うことになります。

ー新島タ 氏/PS Vita「魔女こいにっき Dragon×Caravan」インタビュー

www.entergram.co.jp

 

 では、PC版『魔女こいにっき』アリス√が「エロゲプレイヤーの態度への言及」ともとれることについて説明していこう。(vita版アリス√については4節で述べる。)

 

一番わかりやすく示されているのは、PC版の発売一ヶ月後ボイスである。

何?私?私はアリスよ。今更こんなところに、何の用なの?

知ってる。ここ一ヶ月、あなたが何をしていたか。さんざん私たちをもてあそんで……翌月には別のゲームのヒロインにうつつを抜かしていたのよね。知っているわ。

でもいいわ……。恋ってそういうものだよね。心はいつだって、ヒラヒラと、移り気で……取り残された物語だけが、漂い続けるのね。私はここで、あなたとの物語を何度も繰り返すことにするわ。だから、あなたは帰っていいの。あなたは違う。あなたはいらない。

だから……ばいばい。

ーアリス/PC版『魔女こいにっき』発売後一ヵ月ボイス

Qoobrand > 「魔女こいにっき」Official Website

 

 vita版まで含めた「魔女こいにっき」というコンテンツ全体の中で、プレイヤーについて直接言及しているのは、この発売後ボイスだけのはずである。

このボイスにおいて、アリスは一ヶ月のうちに何人ものヒロインを攻略しているだろう一般的エロゲーマー対して「(物語の主人公としての)あなたとの日々を繰り返すことを選び、(プレイヤーとしての)あなたはいらない」と言っていると解釈できる。

 

 思い返してみると、主人公はヒロイン達(恋や梢、美依、聖など)と取っ替え引っ替え関係を持っていった。これは、次々とヒロインを攻略していくプレイヤーと対応している。

また、各√のエンディングにおいて、主人公は消えヒロイン達は取り残される。これも、ハッピーエンドを迎え攻略を終えたプレイヤーがヒロインの元から去ってしまう(物語がそこで終わってしまう)ことに対応している。

 

  次は、OPムービー内のキャッチコピーについて。

あなたを好きになりました
日記を買いました
物語がはじまりました

 1行目「あなたを好きになりました」と2行目「日記を買いました」の繋がりは些か唐突すぎるが、これは「プレイヤーがヒロインに(一目惚れして)好きになり、エロゲを買ってプレイし始めること」を指していると解釈すれば解决するだろう。

 

実際、vita版のインタビューからも監督の新島氏が”絵の可愛さ”、つまり一目で好きになってもらえるかを意識していた節が窺える。

逆に言うと絵を素晴らしくしないと手にも取ってもらえないような企画とも言えるのですが

ー新島タ 氏/PS Vita「魔女こいにっき Dragon×Caravan」インタビュー

PS Vita「魔女こいにっき Dragon×Caravan」公式サイト | スペシャル

 

 

キャッチコピーはこう続く。

ひと目惚れより永遠を
どうか日記に残せたら
あなたが明日へ去らぬよう
私に魔法が使えたら

この部分は、「始まりはプレイヤーの一目惚れでも永遠の愛をエロゲに残せたら。あなた(プレイヤー)が他のヒロインやゲームに去っていかないよう魔法が使えたら。」という思いにも読みとれる。

 

 最後に、EDテーマ「永遠の魔法使い」の歌詞全文を引用しておきたい。

八方美人で 調子いい事言って
理想語る 瞳は まっすぐ
その気にさせるのは 上手いのに
実現できないね 結局

どうにかするきっと
死んでも守るから 絶対
一生懸命 やったふりして
あきらめて

やがて おとぎ話だけが 取り残されて
ただ恋心だけ取り残されて
どこにも行けず たたずむ僕は
魔法を使うよ
永遠なれ


一生一度の恋だ ブラボー!
君のいない世界なんて ありえない
口にするたび どうして
後ろめたいんだろう

永遠に愛する
死んでも離さない 君を
強く抱きしめるふりをして
遠ざかる

やがて恋心だけ 取り残されて
おとぎ話だけが取り残されて
どこにも行けず たたずむ僕は
魔法を叫ぶよ

やがて君が 大人になったら
ぼんやり思い出すだろうか
馬鹿な 望みさ

そしてまだ君が好きで
取り残された 魔法使いがたそがれる町に
かなうことない 未来だけが
歌い続ける

いつか君は 古ぼけた
おとぎ話を 読むだろう ああ
どこにも行けず たたずむ僕が
そこにいるだろう
永遠なれ

ー魔女こいにっき EDテーマ「永遠の魔法使い」/monet

 

 これは、「エロゲーマーがヒロインに一度は永遠を誓ったにも関わらず去っていき、取り残されて佇むヒロインたちが永遠を願っている」と読み取れる。 

 下線を引いた最終部分は、「プレイヤーがそのゲームを再プレイした時に、どこにも行けず取り残され佇んだままのヒロインを目にすることになる」ということを表しているように思う。

 

 

  

 以上のことは、そう解釈できることを提示しただけであり状況証拠にすぎないが、個人的にはクロ、つまり、「エロゲという媒体においてエロゲプレイヤーのヒロインに対する態度に言及しようとした」作品でもあると勝手に思っている。

では、なぜそれがPC版の方のみであり、vita版ではないのかということについてだが、これは次の3点が主だった理由である。

 

① vita版まで含めた「魔女こいにっき」というコンテンツ全体の中で、プレイヤーについて直接言及しているのは、PC版発売後ボイスだけであるから。

 

②プレイヤー(主人公)から取り残されたヒロイン(アリス)がまだいるのに「Congratulation!全てのヒロインを攻略する事が出来ました。」と皮肉っぽく表示されるPC版のみなので。vita版ではこの文字列は無い。

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③アリスが取り残されたヒロインを意味するとすれば、アリスのその後を描いてしまったvita版ではその"取り残された"意味が薄れてしまい、あまり適切でないから。

 

 あのよく分からなくて曖昧なPC版アリス√の終わり方じゃないとどこかしっくりこないというか、なんだかんだであの投げっぱなしのような幕引き感が嫌いではない。

PC版とvita版は結構別物みたいなところがあって、あまり単純には比較できないが、私はPC版のほうがやっぱり好きである。

 

4.私の好きな人が私のことを好きじゃない

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 vita版追加新規シナリオ「灼熱の王子と小さな竜」編について。

 

⚠即ネタバレ満載です。

 

主人公の真田甘楽(上の画像の子)の正体は、上の構図が2節冒頭のCGと全く同じことであることからも分かるように、アリスである。ただし、アリスとしての記憶は失った状態になっている。

ざっくりいえば、ありすが「Cinderella Story」で記憶を取り戻したのと同じように真田甘楽(アリス)が記憶を取り戻す過程が「灼熱の王子と小さな竜」の話である。

 

 本編(記憶を失う前)において、アリスはジャバウォックが好きなのに、ジャバウォックはアリスにもう見向きもしなくなっていた。そのことについてアリスが絶望している様子が窺える部分がある。

好きな人が出来た
その人が好きで……その人が世界の全てで
だけど、その人は私のことが好きじゃないって
私の好きな人が私を好きじゃない
こんなの、耐えられないよ
こんな世界、耐えられないよ

 

-けーこ

これは確か一人目のサブヒロインを攻略し終わったあたりで、けーこが猫(みゃあ)を崑崙のまじないのための生贄に捧げる部分だ。

これはアリスが自分の心情を「魔女こいにっき」に綴った部分と解釈したい。(アリスはところどころ魔女こいにっきを改編している。)

 

 

 記憶を失いその絶望も忘れ真田甘楽となったアリスはなんやかんや「Cinderella Story」と同じ過程を辿り、アリスとしての記憶を取り戻す。

(なんやかんやの部分については特に言うことはないので、各自でプレイをして補完していただきたい。この感想では一切この部分について触れない。)

そして、病んでしまう前の気持ちを思い出すのである。

言いたくてしょうがなかった。

私の好きな人が私を好きじゃない。

だけど……

あなたの幸せを願います。

ただ、その一言が言いたかった。

けれど、あなたが好きだという思いが、欲しいという思いが、暗い感情がそれを許してくれなくて。

 

ー真田甘楽/「灼熱の王子と小さな竜」

本編のSECRET√において、一目惚れという瞬間を永遠にすることが叶わぬものと知りながら、それでもなお変わらないものを求めていたアリス。

「私の好きな人が私を好きじゃない。こんな世界、耐えられない。」と、ジャバウォックと共に時計塔で永遠を過ごそうとしたアリス。

 

長い年月の中で赤黒く爛れていった、そんな恋心が許してはくれなかった一言、

「だけど、あなたの幸せを願います。」

それがようやく言えたのである。

あの手を二度とつかむことはない。

ただ憧れたまま、私は、私の物語に幕を下ろそう。

全てを終わらせる魔法の言葉を口にして。

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 魔女こいにっきに込められていた、かなえられなかった物語。

それが遂に終わりを迎えた。

 

 これが、追加シナリオ「灼熱の王子と小さな竜」の内容だ。

 終わり方だけを見れば十分私好みのものではあったが、いかんせんそれに至る過程が内容を伴っていない。

記憶を無くして別人になってしまった以上、いくらアリスの記憶を取り戻しても、長年熟成したあのどろどろと鬱屈とした情念が薄れてしまっているように感じてしまう。

我々(私)が見たかったのは、単に綺麗にまとまった結末ではなく、それでも永遠を求めたアリスの強い情動の行く末である。物語として上手く完結してしまった分、そういう情念をきちんと見届けたかったのになぁ、という思いが逆に浮き彫りになってしまった印象がある。

結末は嫌いではないし、移植の際の追加シナリオとして物語を上手く纏め上げていたが、プレイヤーが見届けたいと期待していた部分とは少しズレがあったように感じている。悪くはないが、良くもない、私の評価としてはそういったところである。

 

 

 

 この『魔女こいにっき』という作品においては、ありす(ヒロイン)が歳を取るのであり、ジャバウォック(プレイヤー)は不老であった。

しかしながら、現実世界では真逆である。ヒロインはいつまでも変わらずそこにいて、私達だけが年老いていく。

気がつくと、千歳佐奈より年上になり、タマ姉より年上になり、お姉さんキャラよりも年上になっていた。そう遠くないうちに婚期逃しヒロインよりも年上になり、ゆくゆくは人妻よりも年上になるだろう。

だが、それはどうしようもなくそうなっているという、単にそれだけのことである。

あの頃に彼女たちのことを好きだった気持ちは嘘ではなく、ただ、年月の経過によってその気持ちが遠くに行ってしまうだけなのだと、ありす√でそう背中を押された気がする。

いつかもう少し大人になって色々な物語を読み返した時に、取り残されたヒロインたちをみて私が何を思うのか、それは分からないことではあるが、今この瞬間に彼女らのことを想っているのは確かなことであり、少なくとも今はそれだけで良いのだと、そう思う。

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